出典元:オリコン
40歳という遅咲きな絵本作家デビューから今年で10年目を迎えた絵本作家のヨシタケシンスケさん。最新刊『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』(白泉社)は、老若男女が直面するさまざまな「思い通りにならない現実」と「日常にある希望」を見開き2コマで展開し、「前後読む順番を変えることで印象が変わる」と話題になっている。「“気にせずやりたいことをやろう”と思える勇気をくれる」「日常の小さな幸せに気づきたくなる」と大人からの支持も熱い本作について聞いた。
【絵本】前作は「しね」というワードも…“子どもに読ませたくない”児童書が異例のヒット
◆子どもがわからない内容も忖度なく入れる 「わからないもの=つまらない」ではない感性
前作『あつかったら ぬげばいい』は、児童書の枠を超えて「人生の指南書」「カウンセリングのような1冊」と幅広い世代に響き、『オリコン週間BOOKランキング』ジャンル別「児童書」で、2週連続1位を獲得した。その姉妹編の最新刊には、いつかサラサラな髪の毛の歌手になりたいと願う女の子を始め、夢が叶わなかった人、何もかもがバカバカしくなってしまった人が登場し、老若男女が直面するさまざまな出来事を通して描かれている。夢が叶わなくても、日常に小さな希望を見つけることで幸せを感じることができるんだということを教えてくれる。
──最新刊『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』に込めたテーマを教えてください。
【ヨシタケシンスケ】 世の中、どうにもならないことってたくさんありますよね。この本にも出てきますが、災害のような大きな悲劇から、思う存分スリッパを噛みたいのに、親に取り上げられてしまった赤ちゃんの「大人はわかってくれない!」という嘆きまで。どんな状況であっても、自分なりの希望を発見して生きていくしかない。そうした小さな喜びが手掛かりになって持ち直すことって現実にあると思っています。
──たしかに。本書に登場する世間に溢れる暗いニュースに気持ちが沈みながらも、冷蔵庫に入ってるプリンが楽しみな女性会社員の気持ち、すごくわかります。
【ヨシタケシンスケ】 僕自身が人一倍打たれ弱い性格で、世界にも人類にもすぐに絶望してしまうほうなんです。普段から自分を喜ばせる方法をちゃんと集めておかなきゃなと、そんな自戒も込めて「諦めながらも前を向いている」みたいなエピソードをいっぱい集めたら、何か1つのメッセージになるんじゃないかというのは常々考えていたことでした。
──たくさんのエピソードの中には、子どもが「?」と思ってしまいそうなものもあります。
【ヨシタケシンスケ】 僕にとって良い絵本というのは、子どもが「キョトン」としてしまう内容が入っているものなんですね。「僕にはわからないことで大人が笑っている。なんでだろう?」という。それは、「僕も早く大きくなりたい、大人になりたい」という成長することへの希望にもつながるんじゃないかと思うんです。
──意図的に子どもが「?」となる内容を入れているわけですね。
【ヨシタケシンスケ】 はい、「児童書だから」といって変に忖度することなく。そして結構忘れがちなのですが、子どもには「意味はわからないけれど、なんか面白い」みたいな枠がちゃんと備わっているんですね。大人は「わからないもの=つまらない」と切り捨ててしまいがちです。そういった子どもの感性をもっと信じていいんじゃないかなと思っています。